無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10858日

 今日は最高気温35度と急に暑くなった。ここ一週間ほど天気の悪い日が続き、洗濯ものが乾かないで苦労していたので大助かりだ。今までほとんど使っていなかったエアコンもフルに活用して、何とか家の中で生活することができた。寒いときは服を着るなり、湯たんぽを抱くなり、それもできないときは、新聞紙を服の下に詰め込むなり、幾らでも方法があるが、暑いときはどうしようもない。扇風機を回しても、じとっとした生暖かい風が吹いてくだけというのは、生きる気力まで奪われそうだな。

 わしは東京で23歳から32歳まですごしたが、もちろんエアコンなどというものはなかった。まわりに畑があったので結構風が吹いて来てはいたんだが、それでも突然ぴたっと止まることはあるんだな。そういう状態が一晩続くとたまらんので、わしはいろいろ考えたよ。そこで思い付いたのが扇風機の前に濡れタオルを吊るすという方法だ。多少は効果があるようだったが、そのうちに体がじめじめしてくるんだな。そうなると汗を流したくなるが、風呂がないのでさてどうするか。わしは裸になって台所に据え付けてあった小さな流しに乗っかって、小型瞬間湯沸かし器の蛇口を頭の上にもってきてちょろちょろと水を流して洗ったよ。体重が65キロ前後あったから、よく底が抜けなかったもんだな。もし抜けていたらこれははずかしいよな。大家さんになんと言い訳するつもりだったんだろうな。

 これはわしのおふくろから聞いた話なんだが、ある暑い寝苦しい夜、うちの二階に下宿していた学生が夜中に突然呼びにきたんだと。見ると手が血で真っ赤に染まっていたそうだ。包丁でひどく指を切って、血が止まらないから、救急車を呼んでほしいと頼むので、手配した後、どうしたのか尋ねても、果物の皮を剥いていて切ったとしか言わなかった。救急車がきて救急隊員と話しているのを聞いていると、暑くて寝られないので冷蔵庫の扉をあけてその前に扇風機をおいて回していたらしい。ちょっと涼しくなって、冷蔵庫の中にあった果物でも食べようかと思って包丁で皮を剥き始めたんだが、扇風機の風量を調整しようと包丁を持ったまま立ち上がった拍子にコードに躓き、体を支えようとして持っていた包丁で指をおもいきり切って血が噴き出したという顛末らしい。あまりかっこいい話ではないし、下宿のおばさんに話したくないかもしれんな。

みんな暑さには苦労してきたんだよな。