無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10827日 キレる老人築地銀だこ編

 女房の仕事が昼には終わるというので、近所のショッピングモールで待ち合わせて昼飯を食べる事にした。12時待ち合わせだったので、少し早めに待ち合わせ場所近くの築地銀だこ前のベンチに座っていると、突然築地銀だこの方から大声が聞こえて来た。よく聞いていると、どうもたこ焼きを受け取ったあとで支払うか、受け取る前に支払うかでもめているようだった。見ると買い物カートを押した、腰の曲がった80歳台と思しき白髪の老人がカウンターの前で「品物を受け取ったら払うと言うとるじゃろうが。」と何度も怒鳴っていた。おそらく老人がたこ焼きを注文したところ、出来上がるまでに時間がかかるので、先にご会計をお願いしますとでもしつこく言われたんだろう。たまには注文だけしてとんずらするやつがいるのかもしれない。店にしてみたらそれに対する防衛策だろうか。

 しかしそういった築地銀だこの小賢しい策は、この正直で一徹そうな老人には通用しなかったようだ。品物と交換に支払う、これは至極当たり前の商行為ではあるんだが、もしも店側がそうしてほしいと頼むんなら、受け取りのレシートも発行することだし、そこまでいわんでもええんじゃないかとは思うな。結局この老人は出来上がったたこ焼きと受け取り金を支払って引きあげていったよ。

 きれる老人とはよくいわれるが、ある程度までは年齢を重ねることによって丸みがでてくるようにみえるが、一定の年齢を過ぎると、その反動かどうか、先鋭化してくるような気がするな。老化ということなんだろうが、親父なんかも穏やかな老後だったんだが、おふくろの死後、最後の10年間ほどはよく人の批判をするようになったな。聞いていて疲れたよ。面倒をみていた女房は大変だったろうな。以前は若いときの朝鮮の営林署での生活なんかも楽しく話してくれて、わしらを笑わせていたんだが、最後の頃は、しんどかったこと、辛かったこと、嫌がらせをされたことなどを、怒りながら話すんだから聞いている方はたいへんだったな。

 最後の瞬間はわしと女房しかいなかったんだが、どろんと閉じていた目をしっかり見開いて、生き生きとわしの方を見て、おおおと声をあげ、にっこり笑ってそのまま息をひきとった。あの最期の笑顔で嫌な思い出は全部消えてしまったな。いいおやじだったよ。