無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10754日

 来月3日で65歳になるんだが、65年間の記憶にムラがあるという事に最近気が付いた。9月の初めに、16歳から21歳まで寮生活をした学生時代に、最後の半年を同部屋ですごした友人M君と20年数年ぶりに会った呑んだんだが、いろいろ話をしていくうちにわしの知らないことが結構でてきたんだな。わしは過去の記憶には自信があって、人に後れをとったことは無いんだが、このときはちょっと様子が違ったな。このM君は、わしが覚えてない、当時のわしの行動をよく覚えていたんだな。

 当時、校長の方針で、3年生までの寮に、4年生を指導学生として各階2名ずつ配置するということが決まり、わしもM君もそれに選ばれたんだが、(というよりわしはM君が選ばれたという事すらわすれていたんだが)M君との関わりの記憶は全くなかった。それが、話しているうちにM君は、「おまえの階の学生はたるんどるんじゃないか。」と、わしにどやされたと言い出したんだな。どうも消灯後、灯りの見える部屋があるのをわしが見つけて、その階の指導学生だったM君に連絡したらしい。これは盗電で窃盗にあたるので3週間の家庭謹慎になるんだが、普通は学生同士でそこまではやらないだろうという甘えが下級生にもあったんだろうな。ところがこのM君は一歩も引かず、家庭謹慎をくらわしたらしい。M君は相当批判されたらしいが、このことに関してもわしは全く覚えてなかった。

 おまえもそれはひどい事をしたなあと言うとM君は、おまえは人の事は言えんはずだと言い出したんだな。おまえは下級生の腕の骨を折っただろうがと言い出した。これにはわしも一瞬たじろいだな。これに関しては、わしは怪我させた本人だから絶対忘れることはないが、M君が覚えていたのには驚いた。これは空手部の練習中の事故とはいえ、後味の悪いもので、あまり思い出したくない出来事だな。

 他にも、一緒に広島に遊びに行った帰りに、尾道からのフェリーのなかで、他の乗客ともめたらしいが、M君は事細かく覚えているんだが、わしはきれいさっぱり忘れ去っていた。はじめはM君が適当な事を言っているんじゃないかと疑ったんだが、どうもそうではないらしい。この頃の記憶がほんとに抜け落ちているんだな。

 一体この記憶のムラというのはどうしてできるのか、感じた時間の長さに関係あるのか、或はわし自身が無意識のうちに忘れたいと思っていたのか、どうなんだろうな。わしは今回の件で、M君にそんなつまらんこと忘れてしまえよと言ったんだが、案外、普段はわしがM君の立ち位置で、過去の記憶を振り回して、周囲からそんなつまらんこと忘れてしまえよと思われているかもしれんな。気をつけないとな。