無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10720日

 昨晩女房に、娘の家に孫の誕生日のプレゼントを持って行ってくれと言われたので、初めて自転車に乗って行ってみようかと思って気軽にOKしたんだが、早朝女房が仕事に行った後の書き置きを読んでびっくりしたな。今度の土曜日の新築祝い用の花束、孫4人分のプレゼントが2袋、みかん1袋、白魚1袋、食パン2斤と書かれてあった。これはとても自転車で持って行ける量ではないだろう。一度は車で行く事も考えたが、天気もいいし、やはり自転車で行く事にした。そこで前のかごに積んでみたところ、プレゼント2袋と花束を押し込んだらそれだけで一杯になってしまった。仕方が無いので、残ったものはリュックサックに詰め込んで背負って行く事にした。

 なんか満艦飾の船みたいになってしまった自転車をこいで、一路娘の家に向かったんだが、時々向かい風が強く吹くので、その度ごとに花束の包みが抵抗になって進みにくい事この上ない。しかし行程の半分くらいは、ほとんど車の走らない、遊歩道のような感じになっているので、走るのは楽しかったな。ときどきスマホのナビで確認しながら、所要時間約35分で到着した。

 アイスコーヒーを一杯飲んで、30分程休んだ後、同じ道を家に帰ろうと思ったんだが、少しコースからは離れるが、昔の友人がリタイヤして住んでいるのを思い出した。十代の頃から知っている間柄で、住所は知っているが、家に行き来したことはなかった。昔なら番地を探したり、人に聞いたりして、右往左往したあげく、途中であきらめるのが関の山だろうが、今はナビがあるからその心配は無い。だが、ナビでは高低はわからない。指示通りの道を進んで行くと、勾配が30度くらいありそうな坂が現れた。これを登れということらしいが、さすがにこれは無理だな。しかたないので自転車を押して上がったが、その後もだらだらと登り坂が続いて、少し後悔し始めた頃にやっと到着した。やはり年寄りには電動アシスト自転車が必要だな。

 すぐに家の前から電話をしてやったら、びっくりして飛び出して来たよ。その男も、若いときは別になんとも思わなかったが、歳をとるとこの坂道は体にこたえるし、膝も悪いので、さらに坂道の上にある娘の家に行くだけで大変だと言っとったな。売ってマンションに引っ越した人も出て来ているらしいが、また若い人が騙されて買うんだろうな。

 30分ほど道端で話して別れたんだが、帰りはすごかったな。ペタルなんか踏まなくてもびんびんスピードが出てしまう。これは危ないと思ってブレーキをかけると、ぼろ自転車のブレーキがキーキーと、けたたましい音を立てるので、歩いている人が皆振り返っていたな。つくづく、わしはここには住むのは無理だと思ったよ。平地に建っている我が家に帰ったらほっとしたな。