無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10643日

 小学3年のときに、テレビ番組で『ハイラム君乾杯』というのをやっていた。眼鏡をかけたひ弱そうな小柄な青年が、じつは剣の達人で、毎回、いつも持っているこうもり傘を剣の代わりにして、悪人と戦っていたな。西洋のフェンシングなんだが、わしら子供の間でもこれがはやっていて、雨が降りそうで傘を持って学校に行く時は、遊びながら行ったのを覚えている。その『ハイラム君乾杯』のドラマを提供していたのがたしかサッポロビールだった。

「♫知っていますか知ってるかい、世界のビールの名産地、

ミュンヘン、サッポロ、ミルウォーキー、うまいビールの名産地、

ミュンヘン、サッポロ、サッポロ、ミルウォーキー

今でも歌えるが、この歌のおかげでミュンヘンとかミルウォーキーという地名を覚える事が出来た。ドイツのビールは有名だったのでミュンヘンは知っていてもミルウォーキーは初耳だったので、兄貴の地図帳で調べてアメリカにあるという事を知った。アメリカといえば、わしは『パパは何でも知っている』というホームドラマで、各家庭に電気冷蔵庫や電気掃除機や電気オーブンがあり、男女がキスをしたり、靴のままで家の中に入るという生活を知って、カルチャーショックを受けたことがある。これは後年わしが船乗りになって、外国に行きたいと考えた原因の一つになったのかもしれんな。

 兄貴は小学5年か6年だったんだが、しばらくすると、誰に聞いて来たのか知らないが、「あのコマーシャルソングは間違っている。サッポロは日本のビールの名産地かもしれんが、世界のビールの名産地には入ってない。」と言い出した。じゃあ何処なんだと聞くと、それはピルゼンだと教えてくれた。チェコスロバキアという国にある、ピルゼンこそ世界のビールの名産地にふさわしいということらしい。つまり

「♫知っていますか知ってるかい、世界のビールの名産地、

ミュンヘンピルゼンミルウォーキー、うまいビールの名産地、

ミュンヘンピルゼンピルゼンミルウォーキー

と歌わなければ正しくないと言って、歌ってみせたな。

兄貴のおかげでピルゼンという地名とチェコスロバキアという国名も覚えることができた。コマーシャルソングも役にたつこともあるということだな。

 ペルシャ湾〜ニューヨーク航路に乗船していた時、ニューヨークで自分用に、免税扱いで大量にビールを購入したが、その時に入って来たのが「Blue Ribbon」と「Colt45」というミルウォーキーのビールだった。「Blue Ribbon」はうまかったが、「Colt45」はわしらの間では通称『馬のしょんべん』と呼ばれて人気無かったな。みんな先に「Blue Ribbon」を飲み尽くして、飲むものが無くなったあたりからやっと「Colt45」の出番になった。『馬のしょんべん』でも、何も無いよりはましということだったんだろうが、案外今飲んだらうまいと思うのかもしれんな。