無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10639日

 わしは一度だけ株でひどい目にあったことがあった。たいていは、儲け話を持ちかけられても、「そんなに儲かるんなら、わしはいいから、自分でいくらでも儲けてくれ。」といって帰ってもらっている。株の購入にしても、あとで後悔しないように、自分だけの考えで、堅実な銘柄を選び、何があっても自己責任ということに徹底していた。しかし其の時は特に親しいというか、まあ兄貴なんだが、軽い話の中で、これは間違いないといって、M自転車の株の話をしだした。ちょうどその頃、そのM自転車が、新しい分野に進出するとかいうニュースを、わしもどこかで聞いた事はあったので、ちょっと乗り気になったんだな。

 M自転車自体は古い伝統のある会社で、株価は安いが、工場があって自転車も製造しているので、つぶれることは無いだろうという気持ちもあった。最初に2000株購入したが、その後あがり始めた。すぐに売ればいいんだが、それができないのが人間の持つ欲という物で、聞いた話が本当ならこれくらいでは収まらないはずだと、また3000株買い足してしまった。合計5000株の株主になったんだが、肝心のM自転車のほうは、いつのまにか会社名がSM自転車と変って、別会社になっていた。そして元のM自転車の株主は、SM自転車と新分野の両方の会社の持ち株会社として作られた、Mホールディングスの株主となって、新しい株券が送られてきた。

 しばらくすると、SM自転車はMホールディングスから切り離されて、新分野の会社だけがMホールディングスの傘下として残された。その後、その新分野の事業をやるといっていた会社も、事業化できないということで廃業し、結局残ったのは資産ゼロで、貸しビルの一室に事務所があっただけの、何の仕事もしてないMホールディングスというペーパーカンパニーだけになったというおそまつな話だった。そしてわしの手元には堅すぎてチリ紙にもならない、Mホールディングスの株券だけだった。

 東証一部M自転車の株主になったつもりが、いつのまにかペーパーカンパニーの株主にされていたんだな。おそらく合法的で詐欺ではないんだろう。頭のいい奴が考えたんだろうな。欲もほどほどにという戒めとして、今でもMホールディングスの株券を時々取り出して眺めている。