今年が13回忌になるおふくろは、みんなからしっかりしていると言われていたが、ころっと騙されることが何回かあった。誰でも自分は大丈夫と思っているが、それでも被害者がたくさんいるということは、詐欺師はその上をいくだけのテクニックをもっているということだろう。一番驚いたのが、肺がんで余命3ヶ月と診断されて家で寝ていた時のことだった。後で女房から聞いた事の顛末は以下の通りだ。
午後2時くらいに、女房が出先から帰って来ると、ものすごい形相で、玄関から飛び出して来るおふくろとすれ違った。呼びかけても返事もない。するとその後から、おろおろと親父が飛び出してきて、おふくろの後を追おうとしていた。女房は親父を呼び止めて聞いてみると、おふくろの甥の息子にあたるMらしき男から、事故をおこしたか何かで、今すぐ200万円必要だ、助けてほしいという電話がかかってきた。(おふくろが勝手にMだと思い込んだだけ)それを聞いておふくろは通帳印鑑を握って家を飛び出し、銀行に向かったということだった。
誰が聞いても、状況は典型的なオレオレ詐欺なんだが、これが当事者になると頭に血が上っているんだろう、親父にオレオレ詐欺ではないかと指摘されても、逆上して絶対認めなかったらしい。あわてて女房が自転車で追いかけて、説得して連れ戻して来たんだが、Mが困っているのにあんたは見捨てるのかと、薄情者のようにののしられたそうだ。女房は穏やかな人間で、説得も上手なのでよかったが、わしには自信はないな。それから女房が、そのMの勤務先の中学校に電話すると、本人が出ておふくろと話してやっと納得したそうだ。
落ち着いて考えたら、Mは夫婦で中学教師、Mの両親も裕福、叔父さんは会社社長でお金持ちなんだから、肺がんで寝ているおふくろのところに、金の無心なんかしてくるわけないんだが、詐欺師は会話だけで、正常な判断が出来なくなる状況に持って行くんだろうな。それが詐欺師の詐欺師たる所以だろう。本当にオレオレ詐欺恐るべしと、改めて肝に銘じたものだった。