無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと10453日

 朝、9時過ぎに家を出て、墓掃除をするため、寺に向かった。途中の店でお盆用のお菓子を購入して、約30分で到着した。そんなに汚れても無いので、20分くらいで完了し、新しいシキビを立てて寺を出た。いつもなら、途中の中華料理店で、ちょっと早めの昼食として、評判の味噌ラーメンを食べて家に帰るんだが、今日はちょっと違った。女房が、寺から車で15分くらいの所にある、さ○らの湯という、安くて評判のいい温泉施設に、行ってみたいと言い出した。

 この地方には温泉がたくさんあって、温泉好きの人も多いんだが、わしはあまり好きではない。温泉が、というより、風呂がそんなに好きではない。だいいち、昼間から温泉につかってのんびりするという、そういう時間の使い方がわしには理解できなかった。今回もあまり乗り気ではなかったんだが、無下に断るというのも角が立つので、一応、快く了解しておいた。

 昭和48年10月に、船会社に就職が決まり、最初に貰った給料で長野に遊びに行ったことがある。そこで、東京にいた友人のM君に連絡し、2人で黒姫、佐渡、新潟、水上と温泉旅館に泊まって旅行したことがあった。そこそこで、大酒をのみ、最後の水上温泉についた頃には金も少なくなっていた。少し心細かったが、最後だから、ここはひとつ、オネエサンでも呼んでみるかと、フロントに電話をかけてみた。さて、どんなばあさんが来るかと、おっかなびっくりで待っていると、現れたのは、40歳前後の和服の女性だった。

 宴会が始まり、酒が回ってきて、なんか芸でもやってくれと頼んでもなにもしない。所謂芸者ではないんだな。時間が近づいて来ると、昨夜は10万円だした人がいたけど断ったなどと、聞いてもないことをしゃべりだした。わしらには楽しく酒を飲みたいだけで、そんな気は全く無かったので、「ほう、10万円?馬鹿じゃないの」とか、からかっていたら、そのオネエサンも、こいつ等はだめだと思ったんだろう。部屋に干していた、わしらのタオルを見ながら、思いもかけない事を言いいだした。「ああ、あんたら2人、ホモでしょう。」これにはわし等も虚をつかれた。「えっ、わしらがホモ?」2人で顔を見合わせた。

 理由を聞くとこうだ。まずタオルの色が青とピンク、そしてその柄が蝶、この2点でピンときたらしい。いやいや、ピンとこられても困るんだが、このタオルは、最初の温泉旅館で貰った物で、色も、蝶の柄も別にわしらが選んだ訳ではない。本当にそういう法則があるのかどうか、こういう所で長年仕事をしている人のカンと言うのは、馬鹿にできないこともあるんだろうとは思うが、今回は残念ながらハズレだな、ということでお開きになったが、男2人で温泉旅行なんかしていると、そんなふうに見られることもあるんだなと、新しい事実を知って、驚いたこともあった。

  半世紀近く前の、そんなことを思い出して、あのM君も元気にしているかなあ、などと考えながら湯船に浸かっていると、蝉の声や鳥の声が聞こえて来て、いい気分になってきた。露天風呂も泡風呂も気持ちよかったし、案外温泉もいいもんだな。15分200円のマッサージ機で肩や腰をもんでもらって、昼食を食べて、申し込めば無料でトレーニングルームも使えるらしい。全部で1000円もあればOKなので、これから、週一回くらい来て、平日の午前中を過ごすのもいいのかもしれんな。