無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと8733日 千秋寺山の狸

3月のこと、8年前からこの丘陵を歩き回っているという人に、いろいろ話を伺う機会があった。イノシシやマムシも以前は出ていたが、ここ数年イノシシは見てないし、マムシも去年1匹殺しただけだということだった。竹林を歩くと、タケノコを狙ってイノシシが掘ったと思われる穴があちこちにあり、足を取られそうになることがある。多分たくさんいるんだろうが、夜行性なので昼間は出てこないんだろうと安心していた

ところが4月20日のことだった。天神山からの帰り道、尾根からの下り坂に差し掛かった時、下の方から丸々と太った、大きな犬くらいの黒い生き物が、顔や体を左右に揺さぶりながら、こちらの方へトットトットコ駆け上がって来た。しかもこちらの存在には全く気付いていないようだった。

一瞬イノシシかと思ってギョッとしたが、横顔がずいぶん長いので動物園で見たことのあるアリクイのようにも見えた。どこかから逃げてきたアリクイだとしたら、これは獰猛らしいからどんどん近づいてくるこの状態は危険かもしれない。しかしアリクイがこんなところにいるわけがないだろう、などと考えているうちにどんどん迫って来た。5mほど先まで近づいた時にやっとこれは狸だと気が付いた。

狸がいるということは聞いてなかったし、そもそもなぜ夜行性の狸が真昼間にうろうろしているのか頭は混乱したが、それ以上近寄られても困るのでこちらの存在を知らせるために、杖で近くの竹を軽く叩いてみた。

すると狸は止まってこちらを見上げた。すぐそこなので細かな表情まではっきりわかった。その目は明らかに狼狽えていたが、愛嬌のあるかわいい目をしていた。2~3秒こちらを見ていただろうか、突然踵を返すと一目散に30m程ある坂道を転がるように駆け下りていった。その慌てっぷりには思わず笑ってしまった。

狸は昔から人との関わりが伝えられていて、大東亜戦争前のことだが、祖父が狸に化かされたことがあったということを父から聞いたことを思い出した。

そんなことがあった翌朝のことだが、友人が旅行の土産だといって「たぬき饅頭」を持ってきてくれた。これはひょっとし昨日の狸に化かされていて、食べるときに葉っぱにでも変わるのではないかと思ったが、普通のおいしい饅頭だった。

あれだけ太っているのだから食べ物は豊富にあるはずだ。昼間歩き回る必要はないと思うが、一体あの狸はなぜあの坂道を駆け足で登ってきて、どこへ行こうとしていたのだろうとちょっと気になった。