無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと8638日 南部煎餅

先日ネット上で南部煎餅に関する記事を読む機会があった。最初に南部煎餅という名前を知ったのはかれこれ50年以上も前のことで、確か昭和40年代半ばくらいだったと思う。大学生だった兄が夏休みに東北北海道を旅行した時の土産がこの南部煎餅だった。量も多く一見高そうに見えるが実は安い、ということがこれを土産に買った理由だと話していたことを思い出した。調べてみると、東北地方では結構有名な煎餅で、ファンもたくさんいるようだ。

岩手県久慈市宇部煎餅店オンラインで「一斗入こわれ煎餅ピーナッツ2.2kg入り送料込み¥1650」で売っているのを発見したが、東北地方では個人がキロ単位で煎餅を買うのかと驚いた。ここらあたりでは、たくさん買ったといってもせいぜい100g単位が関の山だ。これは無理だと思ったが、しばらく考えているうちに、ちょっと興味が湧いてきた。どんな煎餅だったかも定かではないが、もし良かったら記念に兄にも送ってやろうと思って、試しに一個注文してみた。

兄弟そろって昔から煎餅は大好きで、子供の頃は母親に言われて近所にあった「ねぼけ堂」という煎餅製造所に、よく「くず煎餅」を買いに行った。割れて商品として出せないものをまとめて安く売っていたようだ。ここの煎餅はそれはおいしくて、ボリボリといくらでも食べることができた。この地方で売っている煎餅はだいたい柔らかく、少し甘い。甘いのは煎餅だけではない、鍋焼きうどんも麦みそも少し甘い。気候温暖で災害も少ない、ゆったりとした風土がそのような味覚を作るのかもしれない。

宅急便で3日後に送られてきた。さすがに東北は遠いなと感心しながら開けてみて驚いた。本当に一斗缶ほどの大きさだ。重さを測ってみると2.3キロあった。見たところ姿かたちは50年前のと同じだ。裏には南部煎餅と書かれていた。一枚食べてみてまた驚いた。その硬いのなんの、まるで岩でも噛んでいるようだ。そんなに硬かった記憶はなかったのにこれはどうしたことだろう、製法が変わったのかと思ったが、よく考えてみると前回食べたのが18歳くらいの時だったから、歯も丈夫で別に硬いとは思わなかっただけなのかもしれない。単なる老化現象ということか。

結論としてこれは兄には送れないということだ。聞くところによると、高いインプラントを入れているそうだから、南部煎餅を食べてそれが折れたりしたら何を言われるかわかったものではない。一人では食べきれないので困っていると、福島出身の長男の嫁が、子供の頃南部煎餅はよく食べたというので三分の一ほど持っていった。早速一口食べたアラフォーの嫁の一言が「こんなに硬かった?」には笑ってしまった。

ポテトチップスのような感覚で食べられるこちらの煎餅とは違って、南部煎餅を食べるときは食べることに集中しなくてはならない。うっかりすると歯が折れてしまいそうだ。しかし噛むたびに、当地のようにぼーっとしていたら生きていけない、東北地方の自然の厳しさを感じさせてくれる。特においしくはないが、何とも言えない味があっていい煎餅だと思う。だた、もう少しでいいから柔らかくならないものだろうか。