無駄に生きるとはどういうことか

うちの一族はがんで死ななければ94まで生きると、叔父の葬儀の日に叔母にいわれた。聞いてみると確かにわしの親父他何人も94で死んでいる。そこでわしも94の誕生日に死ぬと決めて、それまでの日数をあと何日と逆算し、切りのいい64で仕事も辞め、死への準備にかかった。その日々をブログに書いている。

あと9104日 ヘイカチの航海記

本棚を整理していると、日に焼けて背表紙も外れたボロボロの本が見つかった。小学校6年生の時に買ってもらった、今井 武著「ヘイカチの航海記」という本だ。奥付を見てみると、昭和38年9月28日初版発行、同10月28日再版発行となっている。小学生が読むにはちょっと難しい本で、読むのに時間がかかったし、思ったほど面白い本でもなかった。とにかく子供向けの本ではなかった。

略歴によると著者の今井武さんは昭和6年生まれとなっている。ご健在なら90歳だ。昭和22年船舶運営会(石原産業汽船)を振り出しに日本汽船、八馬汽船を経て全日本海員組合神戸支部執行委員となって現在に至るとある。

私はどうやらその頃から船乗りになりたいという希望があったようで、航海記という題名につられて、中身はよくわからないがさぞや面白い本だろうと、親に頼んで買ってもらったに違いない。

まずヘイカチという言葉がわからなかった。今のようにネットで検索することもできないことは勿論だが、国語辞典にも載ってない。それ以上調べようがなかったので、本に挟み込まれてあったはがきに質問を書いて発行会社の成山堂に送ってみた。するとすぐに丁寧な返信があった。ヘイカチとは下級船員のことで、職員(士官)である船長、機関長、航海士、機関士以外の部員のことだというようなことが書かれてあった。

この本を最後に読んだのはたぶん中学生のころだと思う。購入後10年たった昭和48年には私自身が著者と同じ船乗りとなり、本に書かれた地域を回ることになったが、すでにこの本の存在は完全に忘れていた。今改めてページをめくってみると、ビルマのラングーンのことなんかもおもしろく書かれている。

しかも書かれてある内容は、昭和48年の私の経験とほとんど変わらないということに驚いている。日本人とわかると人が集まってくること、路傍の三文食堂、映画館での開幕前の国歌斉唱、そしてお茶の接待を受けながら、ビルマの人たちと一緒に日本軍がいた頃のことを懐かしんだこと、サイドカーのようなヤンチョー(リンタク)、進歩した事といえばマツダの軽の3輪車が乗り合いタクシーとして使われていたことぐらいか。

自由化後10年でビルマもかなり変化したようだが、船で訪れた多くの国々の中でもう一度行ってみたいと思うのはビルマだけだ。今の状態は厳しいようだが、早く平和が訪れることを祈っている。